夢の終わりに

第 10 話


昔々ある所に、青い髪の好青年がおりました。
周りは美男美女という、世の腐女子腐男子が喜びそうな学園生活を送っていた、モテモテ好青年リヴァル・カルデモンドには、悪友がいて、名を、ルルーシュ・ランペルージといいました。
これが絵にかいたような超美形で、学園の女子いう女子、中には男もいたし教師もいたけれど、まあ、学園中の人間にものすっごくモテた男でした。
運動神経はからっきしだけど、頭がすこぶる良く、そのうち禁断の愛に走るんじゃないか?と心配するほど溺愛していた人形のように可愛らしい妹に「お兄様素敵!」って思われたくて、生徒会副会長としても精力的に活動し、陰では王子様なんて言われていた、女性にモテたいと考えている世の男の敵が悪友だったのです。
その悪友には幼馴染の親友がいて、名を枢木スザクと言いました。
植民地支配が当たり前だった時代に、自分の国を滅ぼした国の軍隊に入る変わり者でこれまた美形。運動神経抜群で見た目も童顔で可愛いと、差別のひどい時代だったから大っぴらには騒いでなかったけど、それでも狙っている女子がそこかしこにいるぐらいモテモテ男でした。
皇女殿下の騎士になり、98代皇帝の騎士になり、悪逆皇帝の騎士になったりと、出世魚も真っ青な出世街道を駆け抜けたスザクは、18歳の若さで亡くなりました。でも実際には生きていて、学生から悪逆皇帝へと、さなぎから蝶に羽化したかのような変態・・・いや、メタモルフォーゼを遂げたルルーシュを民衆の目の前で暗殺したのです。
暗殺者の名はゼロ。
植民地支配されていた日本で革命軍を結成し、後に悪逆皇帝から世界を救った英雄として、今も語り継がれている偉人の正体が、枢木スザクなのです。
世界はそんなこととはつゆ知らず、英雄ゼロの功績を讃えました。
これは誰も知らない事ですが、本当の英雄はゼロではありません。
悪逆皇帝も、英雄ゼロも、元をただせば世界の悪の象徴となったルルーシュが生み出したモノにすぎず、世界はルルーシュの書いたシナリオに従い、武器を放棄し、戦争の無い平和な世界へと変わっていったのです。
人々はそれを知ることなく、悪逆皇帝を罵り、英雄を称え、そうして世界は優しい世界へと生まれ変わりました。

めでたしめでたし。

これは、まだ俺が人間だった頃、実際に起きた物語。
いまでは俺だけが知る、歴史の裏に隠された真実というやつだ。

「何見てるの、リヴァル?」

声をかけられ、ハッとなった。
顔を向けるとシャワーを終えたスザクが、不思議そうな顔でモニターを見ていた。今いる部屋は三人で借りているコテージの一室。ルルーシュは起こしても起きなかったのでそのままベッドに寝かせている。

「あ、これ新しい映画だよね。確か黒の騎士団の団員視点で進む話だったっけ?」

モニターには、勝利に歓喜し、理不尽な圧政に苦悩し、仲間と死に別れ涙を流す俳優たちの姿が次々と映し出されていく。なかなかの迫力と引き込まれる構成。これは映画のプロモーションで、来月全国一斉ロードショーらしい。

「そうそう、幹部の一人だった玉城って日本人を主役にして、ブラックリベリオンから世界解放の日までを、よりリアルに描いた!って謳い文句のやつ。ゼロの視点や悪逆皇帝の視点は山ほどあるけど、団員視点って初めてだよな」

黒の騎士団が結成されるより前からゼロと戦っていたと言われる一人だ。
ゼロと親友だったと言われている人物で、ゼロに関する数多くの書籍を世に出していた。内容が内容なだけに信憑性は薄いという研究家が最近増えているが、おそらくそれらの書籍を基本に今回の話が作られるのだろう。

「そうだね。でも、結末は変わらないから」
「まあ、そうだけどさ」

どの映画でもドラマでもアニメでも、結末は変わらない。
英雄ゼロが悪逆皇帝を討ち、民衆の大歓声が辺りに響いて終わるのだ。
俺から見れば、たった18歳の少年が世界の憎悪を一身に受け、自分の命と引き換えに世界平和を完成させるという、悲しく辛いラストだが、誰もが笑顔でそのシーンを見つめ、歓喜の声を上げる。
正直、真実を知る身には辛い。

「観に行くの?」
「面白そうだろ?観に行かないのか?」
「終わりが決まってるから、興味はないかな」

あー確かに、過程は変わっても結果に変わりがないから、ドキドキ感も何も無いかもしれない。ブラックリベリオンの敗戦も第二次東京決戦もそうだし、ダモクレスでの敗戦も決定している。

「でも、変えられないだろ、あれは」

変えるって事は、ルルーシュが死なないってことじゃないか。
黒の騎士団は負け、世界は悪逆皇帝の手に落ちたまま。
それじゃ、ルルーシュが望む世界にはならないから意味がない。
あいつの作戦は成功した。大成功だ。だからこそ、今がある。

「そうだね。でも、史実に沿う必要はないだろ?全く違う設定で、違う結末を迎えてもいいと思うんだ。ああ、世界平和は前提でね?」
「それはそれで面白そうだけどさ、無理じゃん」

英雄と皇帝の物語は、史実から外れるような書き方はされない。あくまでも、あの歴史をなぞる前提でしか映像にも文章にも残してはいけない事になっているのだ。理由はわからないが英雄を悪にすることも、悪逆皇帝を賢帝にすることも許されない。 悪逆皇帝が生存していたっていう話を書いたことで、政治的な問題にまで発展し、最終的には法律が作られるまでに至った過去がある。国家間の問題になりかねないと、国際法でも禁止されたぐらいだ。

「そうなんだよね。だからあまり好きじゃないんだ」

全部似たり寄ったりで。
すでに何十本と作られていて、絵本にもなっている。
俳優と、そこに至る過程だけが違う、全部同じ結末の物語。

「それ言われるとな~。でも、俺は嫌いじゃないぜ?」
「そうなんだ」

興味なさそうにスザクはいった。
だってそうだろう?ゼロレクイエムは友人二人が命がけで行った決死の舞台だったのだ。それがどんなふうに表現されるのか、興味はある。あいつらが必死に悪を演じていた事を誰も知らない。モニターにはモデルもやっている有名な俳優が、悪逆皇帝として名乗りを上げているシーンが映し出された。・・・この冷笑の裏でどれだけの不安と戦っていたか。モニターにはゼロが映し出された。・・・この仮面の裏でどれほど苦しんでいたか。俺は、知っているから。
ここにいるスザクは、姿形、声も俺の記憶そのままだが、ゼロになったスザク本人じゃない。そっくりな別人だ。本名もしらない、たまたま知り合ったこの時代を生きる若者なんだから、そんな裏話知らないし、知る必要もない。

「俺は好きだな。勧善懲悪は一定の需要がある」

声に振り向くと、酔っ払いが目を覚ましていた。

Page Top